FAZER LOGINユロメア公爵家は、アーヴェルト王国の中でも突出して、歴史と権威のある家門だ。
長い王国史の中で、多くの宰相や神官、王妃たちを輩出してきたユロメア家は、貴族たちの間でも一目置かれる存在である。 そんなユロメア公爵家には現在、ふたりの公子とひとりの公女がいた。 末娘のジュリエッタ・ユロメアは、ハニーブロンドの美しい髪と、新緑色の大きな瞳を持つ美人として知られている。 珍しい聖属性魔法を使うことができ、幼い頃から第二王子の婚約者として教育されてきたジュリエッタは、社交界でも高嶺の花――だったというのに。「ああ……本当に、神はどうしてお嬢様に、このような試練をお与えになったのでしょう! あんな馬鹿げたお茶会に、あんな聖女まで……私、信じられません!」
「私も同意見よ、マーサ」温かい紅茶を用意してくれながら、マーサはさめざめと嘆いていた。
「私のお嬢様は、こんなにもお優しい、王国いち素敵な方ですのに!」
「ふふ、ありがとう」渡されたカップには、たっぷりのミルクティーが用意されていた。
ひとくち飲めば、ふわりと甘い香りが鼻先をくすぐる。私の大好きな、蜂蜜入りのミルクティーだ。 ほっと溜め息を吐くと、マーサが心配そうに毛布をかけ直してくれた。「お嬢様……本当に、お身体は大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ」彼女を安心させたくて、笑顔を返したけれど、マーサは表情を曇らせたまま、「そうですか……」と、呟いた。
手の中で柔らかな温かさを伝えてくるカップを覗き込みながら、もう一度溜め息を吐く。「本当に、大丈夫よ。……私のことより、あの子が助かって、本当によかったわ」
「お嬢様が頑張られたお陰ですね」そんな会話をしながら、そっと、窓際に置かれたバスケットへ視線をやった。
ふわふわの毛布に包まれて、小さな黒猫が安定した寝息を立てている。 ――私は、あの子猫を治療することができたのだ。 屋敷に着く寸前、私は魔力の使いすぎで気を失ってしまったのだが、ぎりぎり、それまでの治療によって、子猫は命に関わらない程度まで、回復することができていた。 気を失っていたのはあまり長い時間ではなかったが、気がついたときには、私は自分の部屋のベッドで眠っていたのだ。 子猫の怪我も、私が気を失っているうちに、公爵家お抱えの医者が治療に当たってくれたのだという。(私も、ちょっとした魔力の使いすぎなだけだったし、子猫も助けることができたし、本当によかった……)
その日は、話を聞きつけたお母様やお兄様たちが大袈裟なくらい心配しながら見舞いにやってきたり、城で忙しくしているはずのお父様まで、わざわざ顔を出しにきたりと、非常に賑やかな1日になった。
大事をとって休みたい、という私の意思で、夕食も部屋へと運んで貰い、無理をしないよう、早めに就寝してほしいとマーサに拝み倒され……。 眠気もまだまだ遠い時間に、私は薄暗い部屋の中、ベッドで横になっていた。 ベッドサイドには、就寝用の小さなランプを置いているが、ゆらゆら灯るその光を見ていても、一向に眠気が訪れる気配はない。(眠れないのに、無理に寝ようとしても良くないわよね)
諦めて、少し夜風にでも当たろうかと、ベッドから降りた時だった。
視界の隅で、夜の闇がもぞり、と動いた気がして、びくりと小さく飛び上がる。 でもすぐに、その正体に気がついた。 再びもぞり、と小さく動く闇――それは、窓際に置いたバスケットの中身だ。 もしかして、目が覚めたのだろうか。 そう思った私は、ベッドサイドのランプを手に、そっと窓際へ歩み寄る。恐る恐るバスケットの中を覗けば、毛布がもぞもぞと動いて、黒い頭がぴょこんと出てくるところだった。「……おはよう、目が覚めた?」
驚かさないよう、小さな声で呼びかける。すると、黒猫はぴくりと耳を動かして、こちらに顔を向けた。
大きな、澄んだ青い瞳が、まるで宝石のようにランプの光を反射して、煌めく。 その美しさに、目が合って数秒、息が止まった。 黒猫はすぐに、するりと滑らかな身のこなしで居住まいを正すと、バスケットの中で綺麗な姿勢を取り、私へと向き直った。「……俺を助けてくれたのは、お前だな?」
そうして可愛らしい子猫の口が開いて、聞こえてきた低く落ち着いた声に、心底驚いた。
「……え、今、話し……えっ?」
「驚かせてすまない。だが、話しているのは、お前の目の前にいる、俺だと理解してほしい」声に合わせて、子猫の口元が動いている。
また、青い瞳が真っ直ぐにこちらを見つめてきて……私はとにかく落ち着こうと、深呼吸をした。「……ええと。私のほうこそ、ごめんなさい。驚いてしまって。……失礼、だったかしら?」
「いや。驚かせたこちらが悪いから、気にしないでほしい。俺は、ローエンマイン・ロジェルティア・アルファレアという。お前たちが言うところの、神獣というやつだ」 「神獣……」丁寧にぺこりと頭を下げて、そう自己紹介した子猫に、私はようやく納得がいった。
――神獣。アーヴェルト王国を守護してくださっている神が、人のために使わしたという獣。 聖女の他に、神聖力を持ち、その力を振るうことを許された唯一の存在。 教養の中では、そのように習った。 人語を解し、人と獣のふたつの姿を自在に行き来する。強大な神聖力を使って、王国の歴史に名を残すこともしばしばある、神の遣いなのだという。「貴方が、神獣?……その、神の遣いだという、あの?」
「そうだ。神より加護を授かり、人のため、聖女のために力を貸すよう命を頂き、この地に降り立った」聖女のため、と言う言葉に、更に納得した。
王国に聖女が現れる時、揃って神獣が現れていることが多いのは、誰でも学ぶことだ。 神獣たちは、聖女たちに寄り添い、彼女らを守り支え、この国の為に尽くしてきたと言われている。 ならばこの黒い子猫――もとい、黒き神獣も、きっと聖女アリサのためにと遣わされたのだろう。 私は少し考えてから、ランプを近くの棚の上に置き、神獣に向かって寝間着の裾をつまんで深く、礼をした。「そのようなお方とは知らず、無礼を致しましたことを、お許しください。私は、ユロメア公爵家子女、ジュリエッタ・ユロメアと申します」
「どうか頭を上げて欲しい、ジュリエッタ。お前は、私の命の恩人だ」静かで優しい声に、ゆっくりと姿勢を戻した。
変わらずバスケットの中で美しい姿勢を保ちこちらを見つめる子猫が神獣だなんて。 信じられないような気持ちが半分、しかし実際、子猫と会話をしている自分がいることを、受け入れようという気持ちが半分……くらいだろうか。 この子猫が本当に神獣だとして、私の部屋にいる、というのは……無礼にあたらないのだろうか?とか。 アリサのための神獣なのだとして、どうしてあんな傷だらけになっていたのか、とか。 わからないこと、聞きたいことが沢山ある。 そんな中で、これだけは先に確認しなくては、と、口をついて出たのは、こんな言葉だった。「あの……ろ、ローエンマイン様、でよろしいでしょうか? その、お身体の具合はいかがですか? 何処かまだ、痛んだりされませんか?」
私の問いに、神獣の美しい瞳が丸くなり、ぱちくり、と瞬いた。
私の脳裏には、未だに、昼間に見た痛々しい子猫の姿が焼き付いている。 今にも消えそうな命を、必死に繋いでいるあの様子が、抱きしめたときの手の感触が……未だに胸を締め付けて仕方がなかったのだ。 ふ、と青い瞳が柔らかく解けたのは、その時だった。「……お前は、本当に心優しい娘だな」
感心したような神獣の声は、温かく優しい響きを持っていた。
ほんの僅か、白髪の交ざる髪を乱して、ついでに衣服もヨレヨレというものすごい外見で、お父様が素早く部屋の中を見渡し――。 やがてその視線は私と、私の膝でくつろいでいるローエンマイン様の姿を確認した。途端、音が聞こえるんじゃないかという勢いで、お父様の顔色が真っ青になった。「なんということだ……。いや、まさか、そんな……」 「お父様、どうなさったのですか?」 手で顔を覆い、がっくりと肩を落としたお父様の姿に、嫌な予感がする。(ただでさえ、ローエンマイン様から契約を迫られて困ってるっていうのに……また何か、厄介ごとでも起きたっていうの?) あまりにもショックを受けたお父様の姿に、お母様が立ち上がり、そっと寄り添った。「……あなた。何がありましたの?」 「……ああ。そうだな。すぐに出発しないといけないんだ」 「まぁ、どちらへ?」 多少冷静さを取り戻したらしいお父様が、お母様の手を握り、やっと顔を上げる。 その表情はとても、困り切っているように見えた。「説明は馬車の中でするから。ジュリエッタ、すぐに出掛ける準備を。……その、『膝の上の御方』も、お連れしなさい」 ……どうやら、私の悪い予感は的中したようだった。 お父様が、何か話を聞く前に、私の膝の上のローエンマイン様を、『膝の上の御方』と呼んだ。それだけで十分だ。「わかりました。すぐに王宮へ向かう準備を致します」 そう返事をして、ローエンマイン様を抱えて早足で自室へ戻る。 身支度を調えて屋敷からでると、玄関口には既に、正装に着替えたお父様とお兄様たちが揃っていた。お母様は、屋敷に残るらしい。 見送り際、お母様は私をぎゅ、と抱きしめて、ローエンマイン様にはそっと頭を下げた。「神獣様。娘を、どうかよろしくお願いいたします」 「案ずるな。ジュリエッタのことは、必ず守る」 馬車はいつもより速い速度で、王宮へと走りだした。私の隣にお父様が座り、向かいにはお兄様たちが座っている。 いつもより少しガタガタと
「……と、いうわけですの」 「…………」 翌日。 私は談話室にて、お母様とお兄様たちを前にして、冷や汗を流していた。 半ば尋問のような雰囲気の中、ローエンマイン様についての全てを説明し終えた私に、沈黙が重くのしかかる。 こんなことになったのは全て、今私の膝で満足そうに丸くなって喉を鳴らしている、ローエンマイン様のせいだった。 結局、一晩中契約を迫られ、断り続け……そんなことを続けている間に朝になり、私の様子を見に来たお母様に対して、あろうことかローエンマイン様がしゃべったのだ。「……む? ジュリエッタの母君か。世話になっている」――と。 当然、お母様は驚き、猫がしゃべったと悲鳴を上げ、それを聞いてお兄様たちがばたばたと駆けつけてくる騒ぎとなり……。 あれよあれよという間に、朝食を兼ねた軽食が並べられたこの談話室にて、取り調べが始まったのだった。(もう……どうしてこんな目にー) 嘆いたところで、ローエンマイン様が神獣であることには変わりない。 彼を助けると決めたのは私なのだから、責任を取らないといけない、とも思っている。 でも……。 ちら、と、正面に座るお母様たちの顔色を窺う。 お兄様――上のお兄様が深い溜息を吐いたのは、その時だった。「――ひとまず、事情はわかった」 「アルト兄様……」 上の兄――長男アルト・ユロメアは、私と同じハニーブロンドに新緑色の瞳の美男子だ。 頭脳明晰なお父様の部下として、また王城にて政治に関わる出世頭として、社交界でも人気の独身男性。 そんな完璧人間の長兄に続いて、下の兄――次男ウォルター・ユロメアが、静かに頷いた。「やはり、リーエは天使のように優しいのだな。さすが俺の妹だ」 「ウォルター兄様……!」 「なんだリーエ。俺は間違ったことは言っていない」 ウォルター兄様は、新緑色の瞳に、お父様譲りの短い茶髪をツンツンさせている。こちらももちろん、アルト兄様と別タイプの美男子として有名だ。
「……身に余るお言葉でございます」 再び深く頭を下げようとする私を、小さな肉球のついた手を振って、神獣が制した。「いい。もっと楽に接して欲しい。私は、お前にこの命を救われたのだから」 「……ローエンマイン様が、そう仰るのでしたら」 神の遣いだという神獣を前にして、緊張しないわけがない。が……彼がそう言うならば、と身を起こし、それでもまだ緊張で固まっている私に、神獣はくすりと笑みを漏らした。「本当に、楽にしてくれ。あの侍女に接していたように、言葉も崩してくれて構わない」 「それは……。さすがに、神獣様に対して、そこまで無礼なことは……」 「この俺の頼みでも、聞いてもらえないのだろうか」 (本当に、無茶なことを言う神獣ね) 表には出さないように、心の中でそっと溜め息を吐いた。 神獣といえば、聖女と並び、王族と変わらないくらいの権威を持つ存在だ。本来ならば、私のような公爵家の人間でさえ、お目に掛かることも難しいくらいの存在なのに……。 だが、こんな子猫の姿で、しょんぼりと耳を畳まれてしまうと、彼の頼みを拒否しているこちらが悪者のような気さえしてくる。(まぁ……見た目だってこの通り、子猫なんだし。神獣が望んだのなら、大丈夫かしら?) こんな場面をもしも誰かに見られたら、神に背いただの反逆罪だのと罪に問われかねない。しかし、彼の頼みを断る、というのも、それはそれで失礼だろうし。 散々迷った挙げ句、私は降参することにした。「……わかったわ。普通に話す。これでいい?」 「ああ。そのほうがずっと良い」 ローエンマイン様は、器用に子猫の顔で笑みを作ると、満足そうに頷いた。「それで……聞いてもいいのかしら? あなた、聖女のための神獣、なのよね? どうしてあんな傷だらけだったの?」 「ああ、そのことか」 楽にしてくれ、と言われたついでに聞いてみたのだが、途端に神獣は、青い瞳を嫌そうにすがめた。「あまり知られていないことだろうが、俺たち神獣は、生まれ落ちてすぐは無力なのだ。
ユロメア公爵家は、アーヴェルト王国の中でも突出して、歴史と権威のある家門だ。 長い王国史の中で、多くの宰相や神官、王妃たちを輩出してきたユロメア家は、貴族たちの間でも一目置かれる存在である。 そんなユロメア公爵家には現在、ふたりの公子とひとりの公女がいた。 末娘のジュリエッタ・ユロメアは、ハニーブロンドの美しい髪と、新緑色の大きな瞳を持つ美人として知られている。 珍しい聖属性魔法を使うことができ、幼い頃から第二王子の婚約者として教育されてきたジュリエッタは、社交界でも高嶺の花――だったというのに。「ああ……本当に、神はどうしてお嬢様に、このような試練をお与えになったのでしょう! あんな馬鹿げたお茶会に、あんな聖女まで……私、信じられません!」 「私も同意見よ、マーサ」 温かい紅茶を用意してくれながら、マーサはさめざめと嘆いていた。「私のお嬢様は、こんなにもお優しい、王国いち素敵な方ですのに!」 「ふふ、ありがとう」 渡されたカップには、たっぷりのミルクティーが用意されていた。 ひとくち飲めば、ふわりと甘い香りが鼻先をくすぐる。私の大好きな、蜂蜜入りのミルクティーだ。 ほっと溜め息を吐くと、マーサが心配そうに毛布をかけ直してくれた。「お嬢様……本当に、お身体は大丈夫ですか?」 「ええ、大丈夫よ」 彼女を安心させたくて、笑顔を返したけれど、マーサは表情を曇らせたまま、「そうですか……」と、呟いた。 手の中で柔らかな温かさを伝えてくるカップを覗き込みながら、もう一度溜め息を吐く。「本当に、大丈夫よ。……私のことより、あの子が助かって、本当によかったわ」 「お嬢様が頑張られたお陰ですね」 そんな会話をしながら、そっと、窓際に置かれたバスケットへ視線をやった。 ふわふわの毛布に包まれて、小さな黒猫が安定した寝息を立てている。 ――私は、あの子猫を治療することができたのだ。 屋敷に着く寸前、私は魔力の使いすぎで気を失ってしまったのだが、ぎりぎり、それまでの治療によって、子猫は命に関わらない程度まで、回復することができていた。 気を失っていたのはあまり長い時間ではなかったが、気がついたときには、私は自分の部屋のベッドで眠っていたのだ。 子猫の怪我も、私が気を失っているうちに、公爵家お抱えの医者が治療に当た
「あーーーー!やっと解放されたわ……!」 「お嬢様!いけません、まだ王城の敷地内なのですから」 「いいじゃない、周りに誰もいないわ」 「そうかもしれませんけれど……」 「ああもう、ほんっとうに毎回毎回、馬鹿馬鹿しいったらないわ……」 うんざりするような、茶番めいたお茶会が終わった後。私は侍女のマーサを連れて、王宮の庭園内を散歩していた。 お茶会参加者の他の令嬢たちとはタイミングをずらして、帰りの馬車に乗り込むためだ。 本心では、一秒でも早く、さっさと屋敷へ帰ってしまいたいところだが……なんやかんやと理由をつけて、馬車の乗り合い場所で文句をつけられたくない。既に何度か経験したことだが、あれは唯々、面倒くさい状況だった。 広い王城南の庭園をぐるり、とゆっくりお散歩すれば、他の令嬢たちはすっかりいなくなっている……はず。 おまけに綺麗な花々まで愛でられるのだから、馬鹿の集まりで不愉快になった心も、少しは癒やされるというものだ。 ――本当に、心からそう、思っていたというのに。「……今日という日に限って、一体どういうことですの?」 そろそろ帰ろうかと、そう思っていたタイミングで。 進行方向の生け垣の傍に、艶やかな黒髪が見えた。 非常に残念だが……間違いない、先ほど分かれたばかりの、聖女アリサだ。 彼女はドレスが汚れるのも構わずに、しゃがみ込んで生け垣に頭を突っ込んでいるようだった。「えっ、あれは……」 後ろを歩いていたマーサも、彼女の存在に気がついたらしい。足を止めると、困惑したような表情で声を潜めた。「お嬢様、どうなさいますか? 今からでも、別の道へ……」 「それはさすがに、面倒くさいかな……」 いい加減、お茶会の疲れもあるし、早く帰りたい気持ちが勝る。 それに、彼女の横を突っ切ってしまえば、馬車の待っている場所まで本当にすぐだ。 わざわざ彼女を避けて、庭園をもう一周する――なんていうのは、彼女に振り回されているようで嫌だし。「構わないわ。行きましょう、マーサ」 「……かしこまりました」 すれ違う時に、ちょっと挨拶だけすればいい。 そう心に決めて、気持ち足早に、彼女の横を通り過ぎた。「あら、ご機嫌よう、アリサ様」 それだけ声を掛け、足を止めることすらせずに通り過
晴れ渡る青空の下、咲き誇る花々に囲まれた王室主催のお茶会は、今日も今日とて馬鹿馬鹿しいものだった。 真っ白なテーブルクロスに、色鮮やかで見た目も綺麗なお菓子たち。王室御用達の高級な紅茶もとても美味しいのに……テーブルに集まった貴族の淑女たちは、お菓子片手に笑い声を立てている【ある少女】の機嫌を取るのに、大忙しだ。 王国では滅多に見ることのない、艶やかで真っ直ぐな黒髪に、大きく愛らしい、ぱっちりした垂れ目気味の瞳。 大きく胸元が開いた、大胆なドレスを着て楽しそうにしているのは、先日、この王国に突然現れたという、異世界から来た聖女様だ。「えええ、そうなんですかぁ? やだあ、マルツァーさんったら!」 品の欠片もない言葉に、きゃははと上がる笑声――。もう、限界だった。「……失礼、聖女様」 音を立てずにカップを置き、少し大きな声で言う。 するとぴたり、と周囲の会話が止み、視線が私へと集中した。 にっこりと笑顔を意識して、目を丸くしている聖女様へと声を掛ける。「これまで、何度も申し上げていることですが……。地位ある女性として、品のない言葉遣いをなさるのは、よくありませんわ。そのように声を上げて笑うなど、貴族の幼い子女でもしませんのよ」 やんわりと注意をしたつもりだが、彼女は途端に大きな瞳を潤ませて、さっと俯いてしまう。すかさず、彼女の両脇に座っていた令嬢ふたりが、彼女の身を案じ、こちらを睨み付けてきた。「ユロメア公爵令嬢、どうしてそんなことを仰いますの!」 「そうですわ! アリサ様は、まだこちらの世界に慣れていないだけです! それなのに、毎回そのようにきついお叱りをなさるなんて、あんまりですわ!」 口々に私を批判するふたりに続いて、他の参加者もひそひそと批難を始める。「またですの? ジュリエッタ様ったら、聖女様のことを妬んで、あんな意地悪を……」 「仕方ありませんわ。幼馴染みの第二王子殿下を、聖女様に取られてしまって……」 声を潜めているつもりでも、ばっちりと聞こえている。 私――ユロメア公爵家令嬢、ジュリエッタは、確かに先日まで、第二王子殿下の婚約者だった。 しかし今現在、第二王子殿下の婚約者は、私ではなく彼女――異世界から来たという聖女アリサである。 婚約していたとは言え、私は、ヴォルグ――第二







